天才少年ではなかった!B-CASエミュ「FreeCAS」事件を1からまとめてみた。

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6月8日、「B-CASカード不要で有料放送を視聴できるプログラム”FreeCAS”を独自に開発、公開していた17歳の少年が逮捕」というニュースが流れて話題になりました。

少年の容疑は、「不正競争防止法違反(技術的制限手段回避装置の提供)」です。

調べてみたところ、彼は「うんコム」と名乗って2ちゃんねるに書き込み、自宅サーバーでFreeCASを配布していたようです。

この件について、ネット上の情報をもとに、背景や状況をまとめました。

以下、目次です。

「天才少年」の独自開発ではない!
B-CAS「不正」書き換えとSoftCASそしてFreeCAS
SoftCASとFreeCASの違いは?
なぜ少年だけが逮捕されたのか?
「少年が独自開発した」と報道されている理由は?

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「天才少年」の独自開発ではない!

「数百ページにわたるデジタル放送の仕組みが書かれた仕様書を読み込み、独自開発した」と報道されたため、Twitterなどで「天才少年かよ!」などと話題になりました。

結論から言って、この「少年が独自開発した」は正しい情報ではありません。

この少年は、”SoftCAS”という同じ機能を持つプログラムのソースコードを元に、別の言語に移植して機能を加えたものを”FreeCAS”として配布しただけです。

おそらく警察は、少年が「独自開発」したことにしたいのではないでしょうか?
なぜなら、B-CASカードの内部アルゴリズムや不正書き換え方法を晒した「犯人」を、未だに捕まえることができていないからです。

以下、詳しく見ていきましょう。

B-CASカード書き換えとSoftCASそしてFreeCAS

少年が配布していたFreeCAS、その元になったSoftCASが開発された背景には、約4年前(2012年5月)のB-CASカード不正書き換え事件があります。

2012年5月半ば、匿名の人物が一部のB-CASカードを書き換えるプログラムを公開しました。
このプログラムを使えば、PCとカードリーダーを使って有料放送を不正に視聴できるB-CASカードが作れてしまいます(現在は対策されたB-CASカードが流通しています)。
この人物は、「@OishiiSlurper」というTwitterアカウントで情報を発信していました。外国人とも、外国人を装った日本人とも言われています。
2ちゃんねるでは「ヤキソバン」などと呼ばれているようです。
現在のところ、逮捕されていません。

このプログラムは中身(ソースコード)まで配布されており、カード内部で行われている非公開の復号アルゴリズム(暗号を元に戻す仕組み)まで明らかにされてしまいました。

2012年5月下旬、このソースコードを利用して、別のプログラマが”SoftCAS”という名称で「B-CASカード不要で有料放送を視聴できるプログラム」を作成、公開しました。(このプログラム単体で視聴できるわけではなく、別のフリーソフトウェアと組み合わせる必要があります。)
SoftCASは、今回逮捕された少年が配布していたFreeCASと同種の機能を持つソフトウェアです。
1週間も経たないうちに公開は停止されましたが、その間にダウンロードした人物が別のサーバーのアップロードするなどして、今もネット上に拡散しているようです。
このSoftCASを開発した人物も逮捕されていません。

SoftCASのソースコードも公開されていました。少年は、このSoftCASのソースコードを参考にFreeCASを開発したと考えられます

なぜなら、そもそもFreeCASには、仕様書には記載されていない非公開のアルゴリズムが必要だからです。
よって、「数百ページにわたるデジタル放送の仕組みが書かれた仕様書を読み込み、独自開発した」という解説には無理があります

少年は、ヤキソバンが晒した非公開の復号アルゴリズムとそれを利用するソースコード、それを元に別の人物が作成したSoftCASのソースコードを元に、仕様書を読んで機能を追加したFreeCASを開発しました。
これは、プログラマとしてそれなりの能力があれば、難しいことではありません。

よって、今回逮捕された少年は「単独でB-CASカードの仕組みをハックした天才」ではありません

とはいえ、少年は配布開始当時14~15歳でした。
その年で、SoftCASのソースコードを元に機能を追加したFreeCASを別の言語で作り上げ、大人相手に解説を書き、自宅サーバーで配布していたのですから、かなり高い能力を持つ少年であるとは言えるでしょう

SoftCASとFreeCASの違いは?

公開当時、SoftCASを用いれば有料放送が見放題だったようです。
これは、SoftCASに有料放送を見るための「ワーク鍵(暗号鍵、Kw)」が内蔵されているからです。

その後、有料放送の暗号鍵(Kw)を新しいものに更新する対策がとられました。
しかし、SoftCASの暗号鍵(Kw)を新しいものに差し替える情報がネット上に晒されてしまっています。
現在も、いたちごっこが続いている状況のようです。

暗号鍵(Kw)を内蔵して配布されているSoftCASは、違法であると断言できるでしょう。
有料放送を無料で見れてしまうのですから、配布も使用も法律違反となる可能性が極めて高いです。

一方、少年がSoftCASを元に作成したFreeCASの場合、内蔵されているのは無料広告放送の暗号鍵(Kw)だけです。
他の暗号鍵(Kw)は利用者が別のファイルに設定する仕組みになっているようです。

このことから、少年は「SoftCASと異なり、FreeCASは無料広告放送のKwしか含まないのでたぶんセーフ」といった主張をし、自宅サーバーでの配布を続けていました。

しかしながら、FreeCASの提供は「技術的制限手段回避装置の提供」にあたり、利用は「技術的制限手段回避」にあたるので違法ではないか、との声もあったようです。

なぜ少年だけが逮捕されたのか?

結局、少年は「不正競争防止法違反(技術的制限手段回避装置の提供)の疑い」で逮捕されました。

FreeCASに有料放送を見るための暗号鍵(Kw)は含まれないものの、ネット上で見つけるのは容易です。
そして、FreeCASには暗号鍵(Kw)を外部ファイルで設定する機能があるようです。
そのため、「利用者に有料放送を不正に視聴させる意図=事業者に損害を与える意図」があると見られたのでしょう。

とはいえ、そもそもの発端はヤキソバンが非公開のアルゴリズムを含む、B-CASカード関連のプログラムを公開したことです。
また、ネット上で検索したところ、どうもFreeCASよりもSoftCASのほうが広く使われているようです。

ではなぜ、FreeCASを開発した少年だけが逮捕されたのでしょうか?

そもそもの発端となったヤキソバンが逮捕されないのは、警察も正体をつかめていないからでしょう。
彼は、2ちゃんねるはIPアドレスを警察に開示する可能性があるとして、Twitterで情報を発信していました。

SoftCASの開発者が逮捕されないのは、配布元から短期間で削除されていることと、また海外サーバーからの配布であったため証拠を押さえるのが難しいことが原因かもしれません。

一方、FreeCASを開発した少年は、以下の面から逮捕しやすい状況にあったと言えるでしょう。

  • FreeCASの開発、配布を継続的に行っていた。
    違法行為を続けている状況は、警察としても見逃すことはできないでしょう。
  • FreeCASについて、2ちゃんねるに継続的に書き込みをしていた。
    頻繁に発信していれば、証拠も積み上げやすいですし、人物を特定することも容易になります。
    また、放置しておけば違法行為の拡大につながりますので、警察も本気で捜査するでしょう。
  • FreeCASの配布を佐賀県の自宅サーバーから行っていた。
    海外のサーバーであれば証拠を押さえるのが難しいこともありますが(もちろん絶対に不可能というわけでありません)、自宅サーバーならば逮捕して押収するだけで簡単に重要な証拠を確保することができます。
  • 寄付を募っていた
    少年は、自らのサイトで寄付を募っていたようです。
    不正プログラムを配布して、それによって寄付を募るとなると、警察としても放置できないでしょう。

そんなわけで、FreeCASを配布している少年だけが逮捕されることとなりました。

「少年が独自開発した」と報道されている理由は?

以上が一連の経緯を調べた結果です。そこで疑問なのが、なぜ「少年が独自開発した」というニュアンスの報道がされているのか、ということです。

推測ですが、警察はヤキソバンやSoftCASの開発者を逮捕していないことを報道されたくないのではないでしょうか。

他に開発者がいるとなると、なぜFreeCASの開発者だけを逮捕するのか、という話になります。
違法行為を取り締まることができていないという事実が報道されるのは、警察の最も嫌うところでしょう。
そのため、警察は「FreeCASは少年が独自に開発した」というストーリーにしたいのではないでしょうか。

それに、他に開発者がいるとなると、裁判も複雑化してしまいます。
そうすれば、予想外の判決が出る可能性も高まります。

そんな背景があって、少年が独自開発したと報道され、それを見た人が「天才少年ではないか」と騒いだ、ということかと思われます。

ところで、今回「有料放送を無料で見れてしまう」という点ばかりが問題とされていますが、「無料放送をFreeCASのようなプログラムを使って視聴する」ことについては違法性はあるのでしょうか?

これについては、現在まとめているところです。書き上がり次第、別の記事として掲載したいと思います。

(6/14追記)以下の記事を書きました。

» FreeCASはなぜ違法?B-CASに群がる巨大利権との関連とは?

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